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福岡高等裁判所 昭和49年(ネ)651号 判決

控訴人

株式会社長崎西海建設

右代表者

福田鶴松

右訴訟代理人

木村憲正

被控訴人

有限会社三協産業

右代表者

川添村一郎

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一佐世保西海と長崎相互との間の信用取引契約及びそれから生ずる債務の担保について

佐世保西海が昭和四三年七月二〇日及び同年一〇月四日の二回にわたり長崎相互との間で、利息は貸付の際定めることとし、損害金日歩五銭とする銀行取引契約を締結したこと、佐世保西海の長崎相互に対する債務を担保するため、控訴人が同年七月一七日長崎県に対する相ノ浦水系小川内川災害復旧助成工事請負代金二、四〇〇万円の残金一、六八〇万円の債権を長崎相互に譲渡し、訴外川中貞則、同山本龍夫、同池田世津男及び控訴人が同年七月二〇日連帯保証し(ただし、控訴人のみ金一、〇〇〇万円を限度とする。)、被控訴人が同年九月二五日同人所有の佐世保市熊野町一七七番山林六九四平方メートル外二筆につき、元本極度金五〇〇万円とする根抵当権設定契約を長崎相互との間で締結し、訴外川中貞則、同池田世津男、控訴人及び被控訴人が同年一〇月四日、いずれも元本金二五〇万円を極度とする連帯保証をしたことは当事者間に争いがない。

〈証拠〉を総合すれば、前記昭和四三年七月二〇日の銀行取引契約は、佐世保西海と長崎相互が銀行取引をなすについての基本契約であり、同年一〇月四日の銀行取引契約は、右基本契約に、担保を追加し、貸付額を増加させる趣旨の追加的な契約であること、前記各担保は、いずれも佐世保西海か長崎相互に対し、右銀行取引契約によつて負担する現在および将来のすべての債務を担保するものであること(控訴人の前記一、〇〇〇万円を極度とする連帯保証が現在および将来のすべての債務を担保するものであることは当事者間に争いがない。)が認められる。原審証人川中貞則及び原審における被控訴人代表者の各供述中右認定に反する部分は信用できないし、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、控訴人は、前記認定の担保の他に、被控訴人が昭和四三年九月二五日、極度額金五〇〇万円として、佐世保西海が長崎相互に対し、現在及び将来負担するすべての債務につき訴外川中貞則とともに連帯保証している旨主張しているので検討するに、〈証拠〉によれば、被控訴人は昭和四三年九月の社員総会において金五〇〇万円を極度として連帯保証人となることを社員総会において決議したこと、前記根抵当権の設定契約証書には、佐世保西海と長崎相互間の昭和四三年九月二五日付の金融取引に関する約定書により現在負担し将来負担する債務を担保するため当該根抵当権を設定する旨の記載があることが認められる。しかしながら、右認定の事実から、直ちに、被控訴人及び訴外川中貞則が、前記認定の昭和四三年一〇月四日の元本金二五〇万円を極度とする連帯保証の他に、控訴人主張のような連帯保証をしたことを推認することは困難であり、ほかにはこれを認めるに足りる証拠がない。

二銀行取引契約の終了及びその時点における残存元本債務について

〈証拠〉によれば、佐世保西海は昭和四三年一二月頃取引停止となり倒産したことが認められる。したがつて前記の佐世保西海と長崎相互の間の銀行取引はその頃終了したものと推認される。

ところで、〈証拠〉を総合すれば、右銀行取引契約終了の時点において、佐世保西海は長崎相互に対し、(1)昭和四三年八月三日手形貸付により借受けた金一、〇〇〇万円(以下金一、〇〇〇万円の借入金という。)の残元本金五五〇万円、(2)同年八月二七日手形貸付により借受けた金一〇〇万円(以下金一〇〇万円の借入金という。)の元本全額の各債務があつたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

そのほか、右時点において、佐世保西海は長崎相互に対し、(3)昭和四三年一〇月四日、弁済期同年一一月三〇日として手形貸付を受けていた金二五〇万円(以下金二五〇万円の借入金という。)の元本全額、(4)同年一一月二二日、弁済期昭和四四年二月一日として手形貸付を受けていた金三五〇万円(以下金三五〇万円の借入金という。)の元本全額の各債務があつたことは当事者間に争いがない。

三被控訴人の代位弁済及び同人の控訴人に対する求債権について

(一)  〈証拠〉によれば、被控訴人は、昭和四六年七月二四日、前記二の(3)の借入金元金二五〇万円及びこれに対する延滞損害金四九万六、五〇〇円並びに前記二の(4)の借入金残元金二五〇万円及びこれに対する延滞損害金四六万三、四〇〇円以上合計金五九五万九、九〇〇円を代位弁済したこと、訴外川中貞則、同山本龍夫、同池田世津男はいずれも無資力であることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二)  ところで、前記一のとおり、佐世保西海の長崎相互に対する債務については、被控訴人が自己所有の不動産に元本極度額金五〇〇万円の根抵当権を設定して物上保証人となるとともに、元本金二五〇万円を極度として連帯保証人となり、控訴人が自己の債権金一、六八〇万円を担保のため長崎相互に譲渡して物上保証人となるとともに、元本極度額一、二五〇万円とする連帯保証人となつた他、訴外川中貞則、同山本龍夫、同池田世津男の三名がいずれも連帯保証人となつている。

そうすると、被控訴人は保証人兼物上保証人として前記(一)の金五九五万九、九〇〇円を弁済したものというべきであり、その結果、当然に債権者に代位することとなるが、本件においては、被控訴人及び控訴人は、両名とも連帯保証人と物上保証人とを兼ねているので、民法五〇一条五号の適用上は、被控訴人と控訴 人をそれぞれ単に一人として頭数を計算するのが相当であり、また、保証人間の負担部分については、特約があつたことを認めるに足る証拠がないから、平等と推認される。したがつて、同条により被控訴人が控訴人に対し、債権者に代位しうる範囲は、連帯保証人および物上保証人合計五名として頭数に応じて算定すべきものである。

ところが、前認定のとおり、右連帯保証人川中貞則、同山本龍夫、同池田世津男は無資力であり、連帯保証人間の負担部分は平等であるから、民法四六五条、四四四条により右無資力の連帯保証人の負担部分(償還不能部分)を被控訴人と控訴人が均分折半して分担することとなる。

したがつて、結局、被控訴人は控訴人に対し、前記弁済金五九五万九、九〇〇円の二分の一の金員及びこれに対する弁済の日である昭和四六年七月二四日から民法所定年五分の割合による利息を請求しうるものというべきである。

四控訴人の長崎相互に対する代位弁済

〈証拠〉を総合すれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  前記二の(1)の金一、〇〇〇万円の借入金について、控訴人は、昭和四四年四月一〇日、長崎相互に対し、担保目的で譲渡していた前記請負工事代金債権金一、六八〇万円のうちから金二九八万円を右借入金の元本に充当し、同年九月三〇日右借入金にかかる延滞損害金一〇万三、八〇〇円を、同年一二月二三日右借入金残元金一二〇万円およびその延滞損害金一万〇、〇八〇円の合計金一二一万〇、〇八〇円をそれぞれ代位弁済した。

(二)  前記二の(2)の金一〇〇万円の借入金について、控訴人は、昭和四四年九月三〇日右借入金の残元金一三万円に対する延滞損害金一万一、二四四円を、同年一二月二三日右残元金一三万円ならびにこれに対する延滞損害金一、〇九二円をそれぞれ代位弁済した。

(三)  前記二の(3)の金二五〇万円の借入金について、控訴人は、昭和四四年九月四日その利息金一二万九、七五〇円ならびに延滞損害金一万三、五〇〇円合計金一四万三、二五〇円を代位弁済した。

(四)  前記二の(4)の金三五〇万円の借入金について、控訴人は昭和四四年四月一〇日長崎相互に対し担保目的で譲渡していた前記金一、六八〇万円の債権のうちから金一〇〇万円を充当し、同年九月四日右借入金残元金二五〇万円に対する利息金一二万一、一〇〇円ならびに延滞損害金一万四、八五〇円合計金一三万五、九五〇円を代位弁済した。

(五)  以上控訴人の代位弁済(充当を含む)した金額は合計金五七一万五、四一六円である。

五佐世保西海の長崎県信用保証協会に対する保証料等の支払債務の担保及び控訴人による代位弁済について

〈証拠〉を綜合し、弁論の全趣旨を参酌すれば、次の事実が認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  佐世保西海が長崎相互から前記二の(3)の金二五〇万円の借入及び同二の(4)の金三五〇万円の借入をなすにあたつて、長崎県信用保証協会がその保証をなしたが、その際、佐世保西海のその保証料(保証違約金を含む)の支払債務について、控訴人、被控訴人、訴外川中貞則、同山本龍夫、同池田世津男は連帯保証した。

(二)  そのため、控訴人は、その保証債務の履行として、昭和四四年九月四日右金二五〇万円の借入金にかかる保証料金一万八、五九七円、同日右金三五〇万円の借入金にかかる保証料金一万八、五九七円、同四六年九月二二日右両借入金にかかる保証違約金一一万八、四六四円以上合計金一五万五、六五八円を、前記長崎県信用保証協会に対し代位弁済した。

なお、控訴人は、前記二の(1)の金一、〇〇〇万円の借入金にかかる保証料支払債務についても、前同様被控訴人が連帯保証している旨主張するが、右事実を認めるに足る証拠はない。したがつて、被控訴人が右保証をしていることを前提とする控訴人の主張部分は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。

六被控訴人の再抗弁一、二について

右再抗弁についての当裁判所の認定、判断は、原判決理由三、四の記載と同一であるので、これを引用する。(〈略〉)

七控訴人の被控訴人に対する代位弁済による求償権について

(一)  そうすると、控訴人は、長崎相互に対し連帯保証人兼物上保証人として総額金五七一万五、四一六円を弁済したものと認められるから、当然債権者に代位することとなり、前記三の(二)と同様の理由により、被控訴人に対し、右弁済金の二分の一の金員及びこれに対する前記各弁済の日から民法所定年五分の割合による金員を請求しうることとなる。

(二)  また、控訴人は、長崎県信用保証協会に対し、連帯保証人として弁済した前記五の(二)の金一五万五、六五八円について、当然債権者に代位して、被控訴人に対し求償しうることとなるが、この場合、担保としては前記五の(一)の認定のとおり連帯保証人五名であり、控訴人、被控訴人以外の連帯保証人は無資力であつて、連帯保証人間に負担部分の特約があつたことを認めるに足る証拠がなく負担部分は平等と推認されるので、控訴人は被控訴人に対し右弁済金の二分の一の金員及びこれに対する各弁済の日から民法所定年五分の割合による利息を請求しうることとなる。

八相殺について

控訴人は、被控訴人に対する前記七の各債権を自働債権とし、被控訴人の控訴人に対する前記三の債権額と対当額で相殺する旨昭和四八年一月三一日の本件原審第二回口頭弁論期日において意思表示したことは、本件記録上明らかであり、右各債権額はそれぞれ別紙一、二のとおりであるから、右相殺により被控訴人の控訴人に対する右債権は相殺により全額消滅したものというべきである。

九よつて、被控訴人の請求は理由がないので、原判決中被控訴人の請求を一部認容した部分は失当であるからこれを取消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(生田謙二 右田堯雄 日浦人司)

別紙一、二〈省略〉

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